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東京高等裁判所 平成8年(ネ)3737号 判決 1998年3月30日

控訴人・附帯被控訴人(第一事件原告・第二事件参加被告)

遺言者村野健雄遺言執行者

新井旦幸(以下「控訴人」という。)

右訴訟代理人弁護士

島村芳見

被控訴人・附帯被控訴人(第一事件被告・第二事件参加被告)

田中婦美子こと

田中美子

(以下「被控訴人田中」という。)

右訴訟代理人弁護士

吉田裕敏

被控訴人・附帯被控訴人(第一事件被告・第二事件参加被告)

村野隆一

(以下「被控訴人村野」という。)

右訴訟代理人弁護士

佐久間洋一

被控訴人・附帯控訴人(第二事件参加人)

服部圭子

(以下「附帯控訴人」という。)

右訴訟代理人弁護士

小木佳苗

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  附帯控訴人の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一二分し、その一一を控訴人の、その余を附帯控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一  原審の訴訟手続について

一  原審記録によれば、本件訴訟の経過は次のとおりである。

1  村野健雄(以下「健雄」という。)の遺言執行者に指定された控訴人は、健雄の生前に、健雄と被控訴人田中、同村野及び附帯控訴人との間に成立した裁判上の和解とその後の協議により、原判決別紙物件目録記載二の1、2の区分建物(以下「本件二の1、2の区分建物」という。)及び同目録記載二の3の区分建物のうち三の1ないし4の建物部分(以下「本件三の1ないし4の建物部分」という。)が健雄に帰属すべきものとされ、健雄は、その後、遺産の全部を法定相続人の一人である村野二郎(以下「二郎」という。)に相続させる遺言をしたが、被控訴人田中は、右各区分建物を自らの名義で所有権保存登記をした上、本件二の1、2の区分建物につき被控訴人村野に所有権移転登記をしたとして、(一) 被控訴人田中に対し、本件三の1ないし4の建物部分の区分登記、二郎(後の健雄と変更)への同建物部分及び本件二の1、2の区分建物の所有権移転登記並びに本件三の1ないし4の建物部分の引渡し等を求め、(二) 被控訴人村野に対し、本件二の1、2の区分建物についてされた所有権移転登記の抹消登記手続及び同区分建物の引渡し等を求める訴えを提起した(原審第一事件)。

2  附帯控訴人は、健雄の子で、その相続財産につき遺留分減殺請求権を行使したので、第一事件訴訟の目的である本件二の1、2の区分建物及び本件三の1ないし4の建物部分の各二〇分の一が附帯控訴人の所有であることを主張して、第一事件に独立当事者参加をし、(一) 控訴人に対し、本件二の1、2の区分建物及び本件三の1ないし4の建物部分の各二〇分の一が附帯控訴人の所有であることの確認を(ただし、後に本件二の1、2の区分建物に関する部分の訴えを取り下げた。)、(二) 被控訴人田中に対し、本件三の1ないし4の建物部分の区分登記及び同建物部分につき遺留分減殺を原因とする附帯控訴人への持分二〇分の一の持分一部移転登記手続を、(三) 被控訴人村野に対し、本件二の1、2の区分建物につき遺留分減殺を原因とする附帯控訴人への持分二〇分の一の持分一部移転登記手続を、それぞれ求めた(原審第二事件)。

3  ところが、附帯控訴人は、原審の第三二回口頭弁論期日において、参加請求の趣旨の訂正として、被控訴人村野に対する前記持分移転登記手続請求の全部を削除し、控訴人、被控訴人田中及び同村野は、右訂正に同意した。

そして、原審は、右訂正を有効とした上で、第二事件について、右訂正後の参加請求に対する判断のみをし、その余の判断をしなかった。

二 しかし、附帯控訴人の前記参加請求の趣旨の訂正は、実質的には、被控訴人村野に対する訴えの全部取下げにほかならないところ、本件は、旧民事訴訟法七一条に基づく当事者参加訴訟であり、同一の権利関係について原被告及び参加人の三者が互いに相争う紛争を一つの訴訟手続により全員につき合一にのみ確定すべき訴訟形態であるから、附帯控訴人が被控訴人村野に対する訴えの全部を取り下げても、その訴訟形態の性質上、その取下げは効力を生じないものと解するのが相当である。

したがって、原審裁判所としては、第一事件及び右取下前の第二事件の全部につき判決をすべきであったのに、これをしなかったのであるから、原審の訴訟手続には違法があり、原判決を取り消すこととするが、本件においては、原審において既に十分な審理がされており、改めて審理を尽くさせるため事件を原審に差し戻す必要はないから、当審において、第一事件及び右取下前の第二事件の全部(被控訴人村野に対する請求を含む。)につき自判することとする。

第二  控訴及び附帯控訴の趣旨

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人田中は、別紙物件目録記載二の3の区分建物(建物の番号一〇一号)及びその敷地権から同目録記載三の1ないし4の建物部分及びその敷地権を区分登記の上、亡村野健雄に対し、右各区分建物及びその敷地権並びに同目録記載二の1、2の各区分建物(敷地権付)につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3  被控訴人田中は、控訴人に対し、同目録記載三の1ないし4の建物部分を引き渡し、かつ、平成三年九月一日から右引渡済まで一か月金五二万円の割合による金員を支払え。

4  被控訴人村野は、控訴人に対し、同目録記載二の1の区分建物(敷地権付)につ東京法務局杉並出張所平成三年一〇月二一日受付第三九〇九二号所有権移転登記、及び同目録記載二の2の区分建物(敷地権付)につき同法務局同出張所同日受付第三九〇九三号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

5  被控訴人村野は、控訴人に対し、同目録記載二の1、2の区分建物を引き渡し、かつ、平成三年一一月一日から右引渡済まで一か月金二七万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  附帯控訴の趣旨

1  原判決中附帯控訴人に関する部分を取り消す。

2  控訴人は、別紙物件目録記載三の1ないし4の建物部分及びその敷地権のうち各二〇分の一が附帯控訴人の所有であることを確認する。

3  被控訴人田中は、附帯控訴人に対し、同目録記載二の3の区分建物(建物番号一〇一号)及びその敷地権から同目録記載三の1ないし4の建物部分及びその敷地権を区分登記の上、附帯控訴人に対し、右各区分建物及びその敷地権につき、平成四年一二月二六日の遺留分減殺を原因として附帯控訴人の持分を二〇分の一とする持分一部移転登記手続をせよ。

4  附帯控訴費用は控訴人、被控訴人田中及び同村野の負担とする。

第三  事案の概要

一  本件第一事件及び第二事件の概要は、前記第一に記載したとおりである(ただし、原判決別紙物件目録を本判決別紙物件目録に差し替える。)。

二  本件の争いのない事実等及び争点は、次のとおり加除訂正するほか、原判決八頁五行目から同一八頁六行目までと同じであるから、これを引用する。

1  原判決一〇頁二行目の「昭和六二年」を「昭和六三年」と、同一一頁一行目及び同五行目の各「所有持分」をいずれも「共有持分」と、それぞれ訂正し、同一二頁一行目の「健雄の」の次に「右」を、同三行目の「一〇月、」の次に「本件一棟の建物の設計図が完成し、」を、それぞれ加え、同四行目の「別紙」から同七行目の「)」までを「本件二の1、2の区分建物及び本件三の1ないし4の建物部分とすることに確定した」と訂正する。

2  原判決一三頁一〇行目の「され」の次に「た」を加え、同一四頁四、五行目の「本件二3の区分建物のうち」を削除し、同一五頁一一行目の「したのである」を「したものと解すべきであり、この死因贈与が裁判上の和解でされたなどの特別の事情がある本件においては、健雄が右死因贈与を取り消すことはできない」と、同一六頁三行目の「。」を「、」と、それぞれ訂正し、同四行目の「ので、」の次に「右死因贈与は後の本件遺言により取り消されたとして、」を加える。

第四  争点に対する判断

一  当裁判所も、当審における当事者の主張を加えて本件全資料を検討した結果、控訴人及び附帯控訴人の各請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由の「第三 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一八頁一〇行目の「には、」の次に「遺言の円滑かつ適正な執行を期待して遺言執行者を指定した遺言者の意思に照らしても、」を、同一九頁六行目の「原告本人」の前に「甲一五及び」を、同九行目の「面会し、」の次に「本件和解により取得するものとされた建物区分所有権を含む健雄の所有する」を、それぞれ加え、同一一行目の「同月三一日」を「同年四月二日」と訂正し、同二〇頁一行目の「隆夫」の次に「公証人」を、同行目の「面会し、」の次に「本件和解により取得するものとされた建物区分所有権を含む健雄の所有する」を、同七行目の「なかった」の次に「ものと推認される」を、それぞれ加える。

2  原判決二一頁二行目の「第一二条」を「条項一二項」と、同四行目の「意思表示の解釈は、その表現を含め」を「裁判上の和解の実体は、私法上の契約であるから、その和解条項の解釈は、和解調書の文言のみに拘泥せず、一般法律行為の解釈の基準に従って判定すべきものであり」と、それぞれ訂正し、同七行目の「(」の次に「甲一、乙一の1、2、丙一の1、2、一三、」を、同九行目の「相続し」の次に「、これを売却して得た代金等で係争土地を買い受け、その所有権を取得し」を、それぞれ加え、同行目の「本件」から同一〇行目の「財産」までを「父母を同じくする弟妹の被告村野及び参加人に本件一棟の建物の一部」と訂正する。

3  原判決二二頁一行目の「敷地」の次に「(係争土地)」を、同四行目の「こと、」の次に「本件和解条項第一二項は、同第八項と相まって、係争土地に高層ビルを建築し、その一部の区分所有権及び敷地利用権を健雄と先妻きん子間の子である被告村野及び参加人並びに健雄と後妻はるよ間の子である二郎及び村野俊夫にそれぞれ約四分の一ずつ取得させる目的で設けられたこと、そして、健雄及びはるよにいったん右高層ビルの区分所有権を取得させることとしたのは、同建物部分の一部を賃貸することにより、健雄及びはるよの生活費を捻出するためであったこと、ところで、右和解条項第八項は、同第一二項と異なり、『被控訴人(被告田中)は利害関係人服部圭子(参加人)に対し、本件高層ビルのうち専有床面積17.5坪……を無償で譲渡する。』と表現されていること、これに対し、右和解条項第一二項が前記のような表現となっている理由は、主として、被告村野が健雄の生存中は被告村野の取得すべき本件高層ビルの建物部分をも健雄に賃貸させることにより、その生活費を捻出させたいと意図したためであり、また、健雄による遺言状の作成という形式を採る方が課税の関係で有利であると考えられたことによるものであること、」を、それぞれ加える。

4  原判決二二頁六行目の「のである」から同七行目の「こと、」までを「ものであり、また、」と訂正し、同一一行目の「こと、」の次に「本件和解成立当時、被告田中、同村野及び参加人はもとより、健雄の訴訟代理人であった飯塚孝弁護士も、健雄が後日右和解条項第一二項に反する行為に出ることは全く予想していなかったこと、」を加え、同行目の「に反する」を「を左右するに足りる」と、同二三頁二行目の「右の第一二条は」を「本件和解条項第一二項は、その文言にかかわらず」と、同八行目の「に不利益なものではない」を「の生活の安定に資するものである」と、それぞれ訂正する。

5  原判決二三頁一一行目の「本件」から同二四頁四行目の「すれば、」までを「本件和解条項中の被告田中、健雄、被告村野及び参加人の各権利義務は、相互に密接かつ複雑な関連を有し、これらの和解条項の一部のみを取り上げてその取消しの可否や効力等を論ずるのは相当でなく、また、被告田中は、本件和解に基づき、本件高層ビルの設計・建築をする義務、係争土地上の旧建物の解体費用等を負担する義務、旧建物の賃借人に対する立退料の一部を負担する義務、健雄に対し補償費として一〇〇〇万円を支払う義務などを負い、本件遺言がされた平成二年四月二日までの間に、本件高層ビルの完成を除き、右義務の大半を履行済であったのである(甲一、被告田中本人、弁論の全趣旨)から、以上認定説示したところと、その他本件和解に至った経過、その後の事情にかんがみ、本件においては、和解条項第一二項の死因贈与が取り消されてもやむを得ないと認められるような特段の事情は存在せず、右死因贈与に関する部分に」と、同六行目の「第一二条」を、「条項第一二項」と、同二五頁四行目の「原告」を「参加人」と、それぞれ訂正し、同五行目の「請求は、」の次に「いずれも」を加える。

二  以上の次第で、原審の訴訟手続に違法があるため原判決を取り消すこととするが、控訴人及び附帯控訴人の各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官橋本和夫 裁判官川勝隆之)

別紙物件目録<省略>

別紙平面図<省略>

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